《 文化祭での模擬授業 》
去る9月18日、19日に行われました本校文化祭の折りに、主として本校中学校受験予定者を対象にした模擬授業が行われました。下記に示したように、4教科にわたって行われました。学校で行われている授業に出来るだけ近い形で、授業が体験できるようにねらいを設定して2日間にわたって行われました。
11:00~11:30 英 語 小野木先生
12:00~12:50 社会科総合学習 林先生
14:00~14:30 国 語 田村先生
15:00~15:30 数 学森先生
ここでは、実際に授業を行った先生に今回の授業についての趣旨を書いて頂きましたので、そのまま載せます。
模擬授業(英語)今回の授業の趣旨
英語科 小野木 俊幸
海城中学校では、小学校での英語の時間、各種の英会話スクール等で学んだ経験は前提とせず、初歩の初歩から指導します。中学1,2年次は検定教科書を主たる教材としていますが、様々なプリント・副教材・新基礎英語等を使い、各教員が工夫をして授業を進めていきます。結果としては、中学2年の終わりには中学3年の検定教科書の大半が終了しますが、単なる単元的な先取りは行っておらず、語彙や内容・教養面を深めていくような幅広い取り組みをしています。この時期、単語・決まり文句・文法等の基礎を定着させることも、もちろん重要ですが、中学・高校の6年間、そして大学、さらに社会に出てからも英語を学習したいと思う動機づけの部分も大切にしています。
今回は、(英語をまだ本格的に習ったことがない)小学生を対象としておりますので、とりわけ動機づけという側面を意識し、「これから中学に入って英語を学習したいな」と思えるような授業を心がけました。具体的には、“BINGO”という楽しい遊び歌を取り上げ、最終的にはプリントを見なくても歌えるようになることを目標に展開してみました。その過程で、日本語にはない英語の発音のおもしろさ、英語の発音のリズムの大切さを少しでも感じてもらい、そして何よりも、「英語の勉強って楽しそう」と思ってもらえたなら、今回の授業は意味があったとのではないかと思います。なお、今回の授業は特別なものではなく、普段の授業でも歌やゲーム、映画のシーンを使ったリスニング、海外での経験談等、方法論は担当者により異なりますが、各教員が生徒の興味・関心を引くよう努力して授業を組み立てております。
文化祭2日目の授業の終わりに、生徒さん及び保護者の方に感想を書いて頂いたのですが、どれも非常に参考になるご意見ばかりで、とてもありがたく思っております。その中でも、次のような感想には大変励まされました。
「英語はあまりわからないけれど、今日の授業を受けてみて楽しいことが
わかりました。今日授業を受けてよかったと思いました。」(6年生)
英語を真剣に学習しようと思えば、厳しい部分もありますが、みんなが少しでも楽しく学習できるように今後も努力していきたいと思います。模擬授業に参加して下さった生徒さん、保護者の皆様、どうもありがとうございました。
模擬授業(社会・総合学習)今回の授業の趣旨
社会科 林 敬
海城中学校では、社会科が担当する授業は公民・地理・歴史という系統学習科目と、社会T・社会U・社会Vという総合学習科目があります。総合学習科目では、生徒一人ひとりが自分で社会的な問題を設定し、自ら文献調査や取材調査、フィールドワークをおこなって自分なりの結論をまとめ、調査結果をレポートで表現できるようにすることを目標にしています。もちろん、小学校でそうした学習経験をもった生徒はいませんので、各学年週2時間の授業時間を通じて、レポートのテーマ設定から、文献検索、取材先設定、インタビュー、レポートの章構成などの方法を、授業担当者が一つひとつ生徒諸君にじっくりと教えていくことになります。
今回の模擬授業では、新大久保・高田馬場という海城中学校の周辺地域からどのような総合的な「学び」ができるのか、また社会科総合学習の授業はどのように行われるのかを、みなさんに知ってもらいたいと思い、「地域から世界へ」というテーマを選びました。また、合同教室の特性を知ってもらう意味でも、生徒諸君にパソコンを操作してもらいながら、インターネットによる新聞検索や情報検索、プリントを活用する授業をおこなうことにしました。
授業では、まず、JR高田馬場駅で流れる発車ベルが「鉄腕アトム」の主題歌の音楽であることに気付いてもらい、内回り・外回りの発車ベルが同じ音楽であることを指摘して、生徒諸君に視覚障害者の困惑を考えてもらいました。また、同駅では視覚障害者の転落事故が多く、そのため同駅に日本で最初に点字ブロックを設置することになった経緯を説明したうえで、なぜ多くの視覚障害者が同駅を利用するのかという問題に展開しました。さらに、同駅周辺には、視覚障害者のための施設として東京ヘレン・ケラー協会や日本点字図書館などがあることを示したうえで、それらの団体がおこなっている国内的・国際的な福祉事業を紹介しました。そのように調べていく中で、それらの団体が福祉活動に取り組む上でどのような悩みや課題をもっているのか、それらの団体で働く人々はどのような意欲や満足感、悩みをもっているのだろうか、といったレポートのテーマが成り立つことを示しました。このようにして、レポートのテーマを見つけ、文献情報や取材先を見つけていくのだということを理解してもらおうとしました。
次に、JR新大久保駅を下車して海城中学校に向かう際の「まち」のようすから、飲食店に「ハングル」表記の看板が多いことに気付いてもらったうえで、新大久保周辺のお寺では毎年3回「大久保寄席」が開かれ、その中で日本語と韓国・朝鮮語の「2か国語落語」が公演されたことを紹介しました。なぜ、こうした取り組みが行われているのか、考えてもらいました。生徒諸君の中には、これは新大久保に暮らす日本人と韓国・朝鮮人が同じ笑いで仲良く過ごすことを狙った企画なのだと指摘できる人もいました。こうした企画を立てている「共住懇(外国人とともに住む新宿区まちづくり懇談会)」という団体は、海城の文化祭実行委員会とも協力して、マレーシア料理、朝鮮料理のお店が海城祭の屋台として出店できるように手配してくれたことも紹介しました。
新大久保地域が、現在130余りの国々の人々が暮らす「マルチ・エスニックタウン」として、世界に類例がない「まち」であることを説明したうえで、「共住懇」という団体は、さまざまな国籍をもつ人々が仲良く暮らすことができる「まちづくり」ができれば、それは世界から注目されるようなモデルケースになるだろうと頑張っているのだということを説明しました。この中で、「共住懇」の取り組みはどのような可能性や課題をもっているのだろうか、日本で暮らす外国人の意欲や活動、悩みはどのようなものなのか、といったレポートのテーマが成り立つことを示しました。
このように、新大久保や高田馬場という海城の周辺地域から、世界や国際社会の諸問題につなげて考えることができる総合学習の模擬授業を行ってみました。今回の生徒諸君は、かなり難しい問題であるとともに、次から次へと話題が転換するスピードのある授業展開、なれないパソコン操作などを乗り越えて、よく授業に付いてきてくれたと感謝しています。今回の模擬授業にご参加いただいた生徒、保護者の皆様、どうもありがとうございました。
最後に、こうした模擬授業のようすを振り返っていただくと、一つの話題から次、その次の話題に展開しながら、より大きな問題にたどり着き、それを探求していこうという流れは、本校の中学入試問題のあり方にも大きく関わっていることを実感されるのではないでしょうか。私たちは、幅広い知的好奇心をもった生徒諸君とこうした学習活動を共有して、彼らが国際社会や情報化社会の中でたくましく生きていく大人になるお手伝いをしていきたいと思っています。今回の生徒諸君とは、来年、あるいはそれ以後に海城の教室でいっしょに学習できることを願っています。