特別講座「化学と数学〜ノーベル化学賞を通して〜」開講
化学と数学の融合授業である「化学と数学〜ノーベル化学賞を通して〜」が、放課後講習として今日から開始されました。これは、一昨年の夏の数学リレー講座「Galois生誕200年記念」で扱った「群論」が、諸科学に応用されている現状を鑑み、是非とも「群論」を理科との融合授業で扱いたい、と考えていたところ、化学の平田先生から、「2011年のノーベル化学賞」を発端に話を拡げられそうなので、一緒にやりましょう、と賛同頂き実現したものでございます。
受講者は中2から高1までの有志十数名ゆえ、講義形式ではなく、円座となりインタラクティブに進めることにしました。
まずは、平田先生の「結晶」と「アモルファス」についての解説からスタート。結晶の基礎知識の確認の後、結晶の対義語にあたるアモルファスの例としてガラスを紹介されました。アモルファスは結合力が弱く、それゆえ、たとえば窓ガラスは重力によって下方が厚く、上方が薄くなる、といった話が一同の耳目を集めました。
これを受けて、話題は1984年にイスラエルの化学者ダニエル・シェヒトマン博士が発見された「準結晶」に移りました。この準結晶、当時にあっては物質の概念を覆すといっても過言ではない「5回対称性」をもつため、博士は論文受諾を拒絶される憂き目に遭ったそうです。
しかし、博士の発見は、化学者よりも寧ろ、物理学者や数学者の賛同を得ていた、とのエピソードが披露されました。準結晶にエックス線を照射すると、出現する模様(X線結晶構造解析の回折像)はいわゆる「ペンローズタイル」(※1)であり、これは「ある種の対称性はあるものの周期性はない」という「5回対称性」が認められる模様です。静止画では周期性がないようには到底思えなません。
しかし、平田先生がプロジェクタで投影されたテルアビブ大学発の動画(※2)では確かに周期性がないことが窺えるのです。これには一同から感嘆の声が漏れました。
そしてバトンは数学へ渡され、さきのエピソード(賛同する数学者)は実に数学者らしいものであることを解説致しました。曰く、正五角形を面とする正十二面体では空間を埋め尽くすことはできない(つまり5回対称性がない)が、正多面体ではないものの、面が二種類以上の正多角形だけからなる多面体が存在する可能性があることは平易な不等式を解くことで示されます。
しかも実際に存在する立体のひとつに、なんと正五角形を面とするものが存在するのです。これすなわち、「5回対称性」が認められるわけで、となれば、この広い世の中、正多面体の結晶ばかりではないはずだ、と考えれば、むしろ準結晶の存在は自然である、と思えるではないか、というわけです。
実際、5回対称性をもつもののひとつで、いわゆる(5,6,6)形の多面体を結晶とするものにフラーレンがあり、なるほどこれが準結晶のひとつなわけですね?と平田先生に問えば、「確かにフラーレンには5回対称性がありますね。しかし、残念ながらフラーレンは準結晶ではなく、結晶なのです」とのこと。そして、「フラーレンの発見は1985年ですから、準結晶発見の翌年なのです」と続けられました。
「えっ?ちょっと待ってください。5回対称性があるのに準結晶でなく、結晶なのですか?それは納得がいきませんね」に、うなずく受講者たち。「加えて、フラーレンの発見は準結晶発見の翌年ですって?ならば、もし、フラーレンの発見が先だったならその後の物質の概念はどうなったのでしょうか?」という私の質問に、「なるほど、なるほど。では、次回はそこから入りましょうか」とのことで第一回が終了となりました。次回が待たれます。
受講者からは、「結晶ひとつとっても、化学と数学では捉え方が異なることに興味をもちました。互いの見地に橋を掛けたい」(高1増田君)、「融合したらモノの見方が豊かになり新たな発見につながると思う」(高1前田君)などの感想が寄せられました。
次回は、まずは我々の疑問に平田先生が応えられ、そして、水分子やアンモニア分子などの対称性を表す「群構造」の決定の仕方を扱う予定です。ご期待ください。
※1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB
※2:http://www.tau.ac.il/~ronlif/symmetry.html
参考URL
Chem Station 【速報】2011年ノーベル化学賞は「準結晶の発見」に!
http://www.chem-station.com/blog/2011/10/2011-2.html
高エネルギー加速器研究機構 『準結晶』の発見 2011年ノーベル化学賞解説
http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Highlights/20111208120000/
東北大学 多元物質科学研究所 金属機能設計研究分野 蔡研究室
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/tsai/qc.html
(数学科教員)