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 就任のご挨拶

海城中学高等学校長 水 谷  弘

 海城中学高等学校長として着任初日の4月1日の午前11時ころのことです。グランドの方へ十歩も歩いたかというところ「こんちわ!」と元気な声がかかりました。声の主は、いうまでもなく十数名の部活動の生徒達で元気な汗が一杯でした。「こんにちは、がんばれ!」通り過ぎながらその若さにゾックとくるのもがありました。汗いっぱいのその笑顔の清々しさ、その目の輝き、若者だけが許させる生命力と可能性を感じました。
 これが、本校生徒との最初のあいさつです。本校生徒は、自他ともに認める優秀で素質に恵まれています。また礼儀正しいという評語も「なるほど」と感じました。こういう生徒さん達をお預かりできることは、教師冥利につきます。
 簡単に自己紹介をさせていただきます。
 都立新宿高等学校長を最後に公立高等学校を退職しました。その後3年間、東京農工大学工学部に助教授として勤務し、入試広報室の立ち上げの傍ら数学の授業も担当させていただきました。
 そしてこの3月末日までは、千代田区にあります女子の中学校高等学校に校長として勤務しておりました。学校改革は、授業改革をモットーに中高一貫の進学校を目指して立て直してまいりました。ここ3年間、定員を超える生徒をいただくことができ進学校としての方向付けもできましたので退任することにいたしました。
 さて、この4月から勤務しております海城中学高等学校は、「国家及び社会に有為な人材を育成する」ことを建学の精神とし、1891年海軍予備校として創立されました。以来110年を超える歴史と伝統を有する学校です。また、質実剛健でリベラルスマートな校風が随所に感じられます。
 さて、私は、着任第一声として、熱い思いをもって次のようにあいさつを始業式(高校)でいたしました。

『本校は、明治24年に開校、近年、自他共に、「歴史のあり、伝統のある学校」として、世間の評価が高いことは、今さらいうまでもないと思います。
 しかし、評価が高いと言うことと、これからも人間として、また社会人としてすばらしい人間が育っていくと言うこととは、別の問題だと思います。
 そこで、私自身が、心掛けてきたこと、一教師として、一つの目標として、心掛けてきたことについて述べ、挨拶にかえたい。  
 それは、禅で言う「啐啄同時」と言うことです。
鶏卵が孵化しようとするとき、ヒナが殻の内から鳴く声を啐と言います。
 また、親鳥が、外から殻を“つつく”ことを啄と言います。
 ヒナが内側から鳴く声「啐」と親鳥のつつく「啄」が同時になったとき、卵の殻が割れてヒナが誕生するということを言ったものです。
機を得て両者が相応ずること、のがしてはならない良い時期という意味です。
 これを「啐啄同時」と言います。
 教育も同じだと思います。
 親鳥、これが先生方です。そして殻の中かにいるのが生徒諸君、皆さんです。
 先生方の「つつき」と新しく誕生しようという意欲を持った生徒諸君の「内からの鳴く声、つつき」が同時にあって、初めて新しい生命の誕生を見ることが出来ます。
 私も、いろいろな意味で諸君を「つつき」ます。そして、諸君も「内からの鳴く声」を出して「つついて」欲しい。
 そうしてこそ、現在の“カラ”を破って諸君は生まれ、成長していくのです。
 新しい年度の出発に際し、私の第一声として「啐啄同時」と言うことについて話しました。
 これは、私自身の諸君への約束であると同時に諸君への要望として、自らの問題として受け取っていただきたい。』

私学は公立と違い創立時の建学の精神の実践が期待され、常に成果が問われています。その期待に応答できなければ存続の危機さえあります。
 保護者の皆様と共に、日本に世界に貢献する若者を育ててまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。

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